診療案内
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甲状腺を刺激する体内物質(自己抗体:TRAb、TSAb)があるために甲状腺ホルモンが過剰に作られ、甲状腺機能亢進状態を起こす自己免疫疾患です。女性に多く男女比は1人対5~6人ですが、甲状腺の病気のなかでは比較的男性の罹患率が高い疾患でもあります。
現在市販されている抗甲状腺薬は、メルカゾール(MMI)とチウラジール/プロパジール(PTU)の2種類があり、甲状腺ホルモン合成を抑制する作用があります。
授乳婦の方には、母乳への移行が少ないPTUを使用します。 -
甲状腺に慢性的に炎症が持続し、その結果甲状腺ホルモンの合成能が低下することで甲状腺機能低下状態を来たす、とくに女性に多い疾患です。原因は何らかの自己免疫の異常と考えられていますが、その機序はいまだに明らかにはなっておりません。またすべての方が機能低下症になる訳ではなく、大半は甲状腺機能は正常と言われています。
現在甲状腺機能低下症に対する治療は、不足分を補う補充療法が行われており、甲状腺ホルモンを科学的に合成したT4製剤であるチラーヂンSや、同じくT3製剤のチロナミンを使用します。 -
この疾患も女性に多く、男性の約10倍ほどと言われています。甲状腺の痛みや発熱を伴う炎症が起こる疾患ですが、原因は明らかになっておりません。かぜ症状に続いて発症することがよくあるので、何らかのウィルス感染が関与している可能性が考えられています。炎症部分に軽度からがまんできない程のさまざまな痛みを感じ、甲状腺の片側のみまたは全体が腫れます。発熱は微熱から高熱までさまざまです。
また甲状腺内に蓄えられているホルモンが血管内に放出されるため、甲状腺中毒症状が出る場合があります。基本的には根本治療法はなく自然に改善します。炎症が強く、痛みや発熱などの症状がひどいときには一時的に痛み止めやステロイド剤を使用して症状を緩和することもあります。 -
甲状腺全体的に腫れる単純性びまん性甲状腺腫と、部分的にしこりとなる結節性甲状腺腫に分けられますが、どちらも甲状腺機能は正常なことが多く自覚症状が乏しいことが特徴です。しこり(腫瘍)は良性と悪性に大別でき、注意が必要なのはがんなどの悪性腫瘍です。
またそれとは別に、腫瘍様病変と呼ばれるものがあります。良性腫瘍は濾胞腺腫、悪性腫瘍の例は乳頭がん、濾胞がん、低分化がん、髄様がん、未分化がん、悪性リンパ腫などがあります。腫瘍様病変には腺腫様甲状腺腫、甲状腺嚢胞などが含まれ多くは良性です。 -
はっきりとした甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の場合は、不妊症や流産との関連の可能性が報告されており、甲状腺機能を適切に調整することが大切です。
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1.定義
糖尿病とはインスリン作用の不足により生じる慢性の高血糖を主徴とする代謝症候群であると定義され、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌の低下および筋肉、肝臓、脂肪におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)によって引き起こされます。
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2.分類
1型糖尿病:β細胞の破壊的病変でインスリンの絶対的欠乏が生じ、インスリンが絶対に必要(インスリン依存状態)であることが多い病態です。原因は自己免疫性のことが多いですが、非自己免疫性(特発性)も少数ながら存在します。また、経過とともにインスリン分泌能が緩徐に低下し、糖尿病の発症(もしくは診断)後3ヶ月を過ぎてからインスリン療法が必要になり、高頻度にインスリン依存状態となる「緩徐進行性1型糖尿病(SPIDDM)」という疾患もあります。
2型糖尿病:加齢、肥満、運動不足、家族歴、ストレス、飲酒・喫煙や睡眠不足などの生活習慣などが危険因子とされ、単一の原因による説明が困難な場合が多い病態です。他の疾患に伴う糖尿病(二次性糖尿病)としては慢性膵炎や膵癌などの膵疾患、クッシング症候群,末端肥大症、褐色細胞腫などの内分泌疾患などが存在します。 -
3.診断
慢性的な高血糖状態が持続していることを確認することが必要です。そこで異なった日に採血検査を行い、血糖値が糖尿病型(①空腹時126mg/dl以上、②75gOGTT(糖負荷試験)で血糖2時間値200mg/dl以上、③随時血糖値が200mg/dl以上、④HbA1c (NGSP値)が6.5%以上)を示すことを確認します。
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1.概要
眠っている間に呼吸が止まってしまう疾患で、英名のSleep Apnea Syndromeから頭文字をとって、「SAS(サス)」とも言われています。
無呼吸とは呼吸が10秒以上止まっていることを云い、この状態が一晩(7時間)に30回以上、あるいは1時間あたり5回以上あると睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断されます。睡眠障害の要因として、最近特に注目されている疾患ですが、寝ている間の無呼吸を自分自身でなかなか気付くことがでず、診断されていない潜在患者さんが多数いると推定されています。一般的には成人男性の約3~7%、女性の約2~5%でみられ、男性では40歳~50歳代が半数以上を占める一方で女性では閉経後に増加する傾向にあります。日中の眠気が特徴ですが、糖尿病などの生活習慣病との強い関連があると同時に動脈硬化症の強力な危険因子です。特に高血圧症、狭心症・心筋梗塞、心不全、不整脈などの循環器疾患の合併が数倍多いことが報告されています。 -
2.原因
空気の通り道である上気道が狭くなることが原因です。その要因として頸部の脂肪沈着が多いと上気道は狭くなりやすく、すなわち肥満とSASは深く関係しています。扁桃肥大、舌が大きいことや、アレルギー性鼻炎・鼻中隔弯曲症といった耳鼻科的な疾患も一因となります。下あごが後退している(下顎後退症)、あごが小さい(小顎症)ことも原因となり、肥満でないとしてもSASになり得ます。
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3.症状
夜間の無呼吸やいびき、夜間頻尿、中途覚醒、早朝覚醒、日中の強い眠気や起床時の頭痛や寝起きの悪さなどを認めます。日中の眠気は作業効率や生活の質(QOL)の低下だけでなく、居眠り運転事故や労働災害の原因など危険にも繋がります。
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4.診断・検査
問診や日中の眠気のアンケート(ESS)でSASが疑われる場合は、まず携帯型装置によるご自宅での簡易検査を行います。当院ではまずご自宅での簡易検査を行っていただき、その結必要な場合にはご自宅で(または提携医療機関にて)確定診断のための精密検査である睡眠ポリグラフ検査(PSG)にて睡眠の質や呼吸状態の評価を行うことが可能です。PSGにて、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上であり、かつ上記の症状を伴う場合にSASと診断します。その重症度はAHI5~15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症としています。
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5.治療
軽傷~AHI20未満までの中等症の場合は、生活習慣改善(禁煙、節酒を含む)、減量による体重の適正化、マウスピース(OA :口腔内装置)の使用などにより改善する場合もあります。しかしAHI20以上の中等度~高度の無呼吸症では日中の眠気症状が強いためや、仕事の関係などでなかなか生活習慣の改善や減量が、うまく行かないケースが多いのです。その場合にはAHI20以上の中等症~重症タイプで保険適応となる、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure) と呼ばれる装置を使った治療法が最も効果的で、かつ患者さんへの侵襲が少ないと言われています。
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ナルコレプシーは過眠症の一つで10~20歳代に多く、日本人では600人に一人くらいがナルコレプシーだと言われています。症状としては、抗うことのできないくらいの強烈な眠気が発作的に襲ってきて、本来寝てはいけない場面でも眠りこんでしまいます。病気ではあるのですが、周囲からは「やる気がない」「不真面目だ」などと思われてしまうケースもあります。
原因としては、脳内のオレキシン(ヒポクレチン)を生産する神経細胞(ニューロン)の障害が一因であるとされ、現在も研究されています。また、白血球の血液型であるHLA型との関連性も指摘されています。反復する居眠りのほか、特徴的な症状として驚いたり怒ったり、感情が動いた時に全身の力が抜けてしまうカタプレキシー(情動脱力発作)、寝てすぐに出現する幻覚(入眠時幻覚)、金縛り(睡眠麻痺)があります。
診断するための検査には、睡眠ポリグラフ(PSG)に加えMSLT(反復睡眠潜時検査)が必要になります。治療としては、中枢神経刺激薬といわれる薬が有効です。また情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、抗うつ薬の一種で、レム睡眠抑制作用のある薬が用いられます。 -
この病気は、睡眠中にはっきりしゃべったり、物を投げたり、急に動いて家具にぶつかったり、隣の人を殴ろうとします。これは睡眠中に見ている夢(追いかけられるなど悪夢が多い)に合わせて体がうごいてしまうからです。本来レム睡眠は夢見睡眠ともいわれ、脳は起きているが、体は休んでいる状態です。ですがこの疾患ではレム睡眠時でも筋肉がゆるまず、脳が見ている夢に合わせて口や手足がはっきり動いてしまうのです。40~50歳代の男性に多く発症します。原因ははっきりしていませんが、半数で精神的ストレス、半数で何らかの神経変性疾患(レビー小体型認知症、パーキンソン病など)との関連が考えられています。診断はほぼ問診で行い、異常行動に加えて、「嗅覚障害」「起こすとすぐに覚醒して、意識ははっきりしている」「夢の内容を覚えている」などがあればより可能性が高くなります。確定診断は睡眠ポリグラフ(PSG)で行い、レム睡眠中の筋肉の緊張が確認できれば診断されます。
治療としては、抗不安薬・抗てんかん薬などの、脳の働きを抑え筋肉を緩めたり、不安や緊張を和らげたりする薬を使います。また補助的に睡眠リズムに関係するメラトニンの働きを調整する薬を使うこともあります。 -
この疾患は下肢不静止症候群ともいわれ、下肢を中心に虫が皮膚を這うようなむずむずする不快な感覚が生じ、足をじっとすることができず動かさずにはいられない状態が持続します。この症状は夕方から夜間の安静時に出現・増強するのが特徴で、そのため入眠困難などの不眠の原因として軽視できない疾患と言えると思います。日本人の3~5%にいると考えられており、40歳代~の女性に多いのが特徴です。
病態としては脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」の機能異常と言われています。はっきりと原因のわからない特発性と、以下に示す増悪因子に伴う2次性があります。鉄欠乏性貧血、人工透析、妊婦、ストレス、パーキンソン病、甲状腺機能低下症(橋本病)、糖尿病など
診断はほぼ問診にて行いますが、増悪因子をスクリーニングするための採血や、むずむず脚症候群に合併する周期性四肢運動障害を確認するために睡眠ポリグラフ(PSG)を行うことがあります。治療は例えば鉄欠乏貧血に対して鉄剤を処方するなどの原因疾患に対する治療や、ドーパミン神経の働きを補助する薬や、抗けいれん薬が使用されることが多く効果が期待できます。
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副甲状腺からは、血中カルシウム濃度の維持に欠かせない副甲状腺ホルモンが分泌されます。副甲状腺機能低下症は、この副甲状腺ホルモンの分泌が低下することにより、副甲状腺ホルモンの作用が低下し、血中のカルシウム濃度の低下がもたらされる疾患です。
全国で2300例程度稀な病気ですが、遺伝性が認められることがありますので、ご家族の中にこの病気の方がいらっしゃる時には検査を受けた方が良いでしょう。男性と女性では、頻度に相違はありません。一部の副甲状腺機能低下症では、遺伝子変異により副甲状腺ホルモン分泌が低下することが分かっています。また副甲状腺に対する自己抗体により、副甲状腺ホルモン分泌が低下する場合もありますが、現状では原因の明らかではありません。
本疾患では血液中カルシウム濃度が低下することにより、テタニーと呼ばれる特徴的な手足の筋肉の痙攣や、手足や口の周りの痺れ感などが多く見られる症状です。痙攣は高度の場合には全身に及び、てんかん様の発作を示す事もあります。また歯の発育が障害される場合もあるほか、白内障も起こりやすくなります。
活性型ビタミンD3製剤を服用する事で、血液中カルシウム濃度をほぼ正常に維持する事が出来ます。活性型ビタミンD3製剤だけでは症状のコントロールが難しい場合には、カルシウム製剤が併用されることがあります。血液カルシウム濃度が正常化すると、上記の症状改善することが報告されています。 -
プロラクチノーマは、乳汁分泌作用ホルモンであるプロラクチンが過剰に産生される下垂体腫瘍です。高プロラクチン血症により月経異常や不妊症となり、妊娠・出産していないのに乳汁漏出がみられたりします。平成11年度(1999年度)の厚生労働省研究班による全国調査では、1998年1年間の推定受療患者数が、プロラクチノーマを含むプロラクチン分泌過剰症で12,400名と報告されています。プロラクチノーマは、男女比は1:3.6と男性には少ないですが、男性では大きな腫瘍でみつかることが多いです。発症年齢は、女性では21~40歳に多くみらますが、男性では20から60歳にかけて均一に分布しています。
プロラクチノーマが発生する原因は、まだはっきりわかっていません。プロラクチノーマの一部に、遺伝が関与する疾患として、プロラクチノーマ以外に副甲状腺や膵臓に腫瘍が発生する多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)があります。プロラクチノーマの女性では月経不順、無月経、不妊、乳汁分泌が、男性では性欲低下、インポテンスやまれに女性化乳房、乳汁分泌がみられます。プロラクチノーマが大きい場合、圧迫症状として、頭痛、視野障害がみられます。プロラクチノーマに対する治療の第一選択は、薬物療法です。ドパミン作動薬であるカベルゴリン、ブロモクリプチンやテルグリドを内服します。薬物による治療成績は良好で、治療開始後速やかに血中プロラクチン値は基準範囲内に低下し、乳汁漏出や月経異常の軽快、下垂体腫瘍の縮小が得られます。薬が効かない一部の腫瘍や副作用のため薬の継続が困難な場合には外科治療を行います。腫瘍の大きさなど一定の条件を満たしたプロラクチノーマは、脳神経外科専門医による外科的摘出で治癒が期待できます。 -
先端巨大症は「アクロメガリー」とも呼ばれ、額、鼻、唇や下あごが大きくなる特徴的な顔貌と、手足など体の先端が肥大する病気です。思春期までに発症すると巨人症になります。頭痛や高血圧、糖尿病、いびき、多汗、関節痛、手の痺れなどの症状を伴います。しかし外見の変化はゆっくりと進むので本人や家族は気づかないことがあります。また無治療の場合やコントロールが十分ではない時には、合併症によって生命予後が悪化しますので、しっかりとした治療が必要です。欧米の 疫学調査 では、人口10万人あたり4-24人という報告があり比較的まれな病気です。しかし最近の報告ではより多い可能性もあり、見逃されている可能性も少なくありません。男女の差はなく、40歳代から50歳代の方に多くみられます。まれに10歳から20歳代で高身長からみつかることもあります。
「下垂体」と呼ばれる小指の先ほどの脳の一部にできる良性の腫瘍が、成長ホルモンを過剰に分泌すること原因です。成長ホルモンは子供では成長を促し、大人では代謝を調節しているので、過剰になるといろいろな症状が出ます。遺伝することはありませんが、ごく稀に 多発性内分泌腫瘍症 Ⅰ型や 家族性 下垂体腫瘍の場合、家族の中で下垂体腫瘍などがみつかることがあります。症状は、特徴的な手足の肥大や顔つきの変化のほかに全身にあらわれます。下記の症状がいくつか当てはまる場合、病気の疑いが強くなります。頭痛がする・視力が下がった・視野が狭くなった・噛み合わせが悪くなった・歯並びが悪くなった・舌がからまる・声が低くなった・いびきが大きい・昼間の眠気が強い・いつも手が汗ばんでいる・両手の指先がしびれる・関節が痛む・額や目の上がとび出ている・鼻が大きくなった・唇が厚くなった・下あごが出ている・舌が大きくなった・昔の写真とどこか違う・手が大きくなった(指輪が入らなくなった)・足が大きくなった(靴が入らなくなった)・生理が乱れるようになった・糖尿病や高血圧と診断されたなどです。
原因である下垂体にできた腫瘍を取り除く手術を行うのが一般的です。腫瘍の大きさによりますが、鼻からアプローチする手術方法が確立されています(蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術)。腫瘍が大きいために手術が難しい場合や合併症が重症で術前に改善が必要な場合、手術後もまだ血液中の成長ホルモン量が過剰な場合、通常薬物による治療を行います。それでも不十分な場合には、放射線(ガンマナイフなど)による治療を行う場合もあります。
手術で腫瘍が完全に切除できた場合は治ることが期待出来まが、不十分な場合でも薬物療法でコントロールすれば病気による悪影響を防ぐことが出来ます。適切な治療を受けずに、長期にわたって成長ホルモンの過剰分泌が続いた場合は、糖尿病、高血圧症、高脂血症などを合併し、手根管症候群、変形性関節症の悪化やさらに狭心症、心筋 梗塞 、心不全、脳血管障害などを起こす危険性もあり、生命予後が悪化しますので、十分な治療を継続することが大切です。また大腸癌、甲状腺癌などを合併する可能性も高くなりますので、早期発見・早期治療が大切です。 -
アジソン病は、副腎皮質ステロイドホルモン分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態であり、副腎皮質自体の病変による 原発性と、下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌不全による続発性に大別されます。原発性の慢性副腎不全は1855年英国の内科医であるThomas Addisonにより初めて報告された疾患であることから、Addison病とも呼ばれています。この原発性慢性副腎皮質機能低下症の病因には先天性のものと後天性のものが存在しますが、アジソン病は後天性の成因による病態を指します。主に成人にみられ、一方先天性のものは主に小児期に発症がみられます。アジソン病のうち結核性の原因によるものは40~60歳に多く、男女比では男性に多いです。特発性のものでは発症年齢は広く分布して、性差はありません。アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併する多腺性自己免疫症候群I型(HAM症候群)は、小児期から発症がみられます。
アジソン病の病因は、感染症あるいはその他の原因及び特発性に分類されます。感染症では結核性が代表的ですが、真菌性や後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えています。特発性アジソン病は自己免疫性副腎皮質炎による副腎皮質低下症ですが、しばしば他の自己免疫性内分泌異常を合併し、多腺性自己免疫症候群と呼ばれています。アジソン病に特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するⅡ型(HAM症候群)と、アジソン病に橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患を合併するⅡ型(Schmidt症候群)があります。特発性アジソン病では抗副腎抗体陽性のことが多く(60~70%)、ステロイド合成酵素のP450c21,P450c17などが標的自己抗原とされています。その他、癌の副腎転移、代謝異常などによる副腎の変性・萎縮を起こす副腎白質ジストロフィー、Wolman病などがあります。副腎皮質ホルモンの欠落により、易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などがみられます。食欲不振、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状、精神症状(無気力、不安、うつ)など様々な症状が出てきますが、いずれも非特異的な症状です。色素沈着は皮膚、肘や膝などの関節部、爪床、口腔内にみられます。
不足するステロイドホルモンを補充します。急性副腎不全の発症時には、グルココルチコイドの速やかな補充と、水分・塩分・糖分の補給が必要であり、治療が遅れれば生命にかかわります。この病気では生涯にわたりグルココルチコイドと必要に応じてミネラルコルチコイドの補充が必要です。新生児期・乳児期には食塩の補充も必要となります。
治療が軌道に乗った後も、発熱などのストレスにさらされた際には副腎不全を起こして重篤な状態に陥ることがあるため、ストレス時にはグルココルチコイドの内服量を通常の3倍量ないしは決められたストレス量(ヒドロコルチゾンで体表面積あたり60mg/日程度など)に増やして服用します。 -
バソプレシンは尿量を少なくする作用を有するホルモンで、抗利尿ホルモン(Antidiuretic Hormone, ADH)とも呼ばれます。血液中のバソプレシンが少なくなると尿量が増加し、逆にバソプレシンが増加すると尿量が減少します。こうした尿量の調整は体にとって大変重要で、例えばのどが渇くような脱水状態では血液中のバソプレシンは増加して体に水分を保持する機構が働きますし、水分を必要以上に摂取した際にはバソプレシンが低下して余分な水分を尿として排泄します。「下垂体性ADH分泌異常症」には血液中のバソプレシンが低下するバソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)と、バソプレシンが増加するバソプレシン分泌過剰症(Syndrome of inappropriate secretion of Antidiuretic Hormone: SIADH)があります。バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)では尿量が増加するとともに、のどが渇き、大量の水分を摂取するようになります。一方、バソプレシン分泌過剰症(SIADH)では体内に水分が貯留するため血液中のナトリウムが薄まり、低ナトリウム血症を呈します。
我が国におけるバソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)の患者数は5000-10000人程度と考えられます。一方、バソプレシン分泌過剰症(SIADH)の患者数は不明ですが、軽度の低ナトリウム血症を呈する患者も含めると特に高齢者ではかなりの患者数になると思われます。バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)はどの年代でも発症しますが、小児にやや多いことが報告されています。一方、バソプレシン分泌過剰症(SIADH)は高齢者に多く発症します。
バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)は脳腫瘍や外傷などにより発症する場合(続発性)、 家族性に発症する場合(家族性)、および原因が不明な場合(特発性)に分類されます。原因不明の特発性中枢性尿崩症は10-20%程度、家族性中枢性尿崩症は1%程度、残りの80-90%が続発性中枢性尿崩症です。バソプレシン分泌過剰症(SIADH)は脳腫瘍や脳梗塞などの脳の病気、あるいは肺炎や気管支喘息、肺癌などの肺の病気に伴って発症します。また、一部の薬の副作用でバソプレシン分泌過剰症(SIADH)が発症することもあります。家族性中枢性尿崩症は50%の確率で遺伝しますが、その他のバソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)やバソプレシン分泌過剰症(SIADH)は遺伝することはありません。バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)では尿量が増え、のどが渇き、たくさんの水分を摂取するようになります。多い場合は一日10Lの水分を摂取して10Lの尿を排泄することもあります。尿意のため、夜間に何度も目が覚めます。また、大量に水分を摂取するために食欲が低下し、体重が減少する事もあります。バソプレシン分泌過剰症(SIADH)では低ナトリウム血症の程度によっては倦怠感、脱力などの症状を呈しますが、症状が軽くて患者さんが体調の変化に気づかないこともあります。
バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)ではバソプレシンと同じように尿量を減少させる作用がある薬(デスモプレシン)を投与します。デスモプレシンには経口製剤があります。バソプレシン分泌過剰症(SIADH)では水分摂取を制限するのが治療の第一となります。また、低ナトリウム血症の程度によっては食塩を投与することもあります。これらの治療を行っても低ナトリウム血症が改善しない場合は、バソプレシンの作用をブロックして尿量を増やす薬(トルバプタン)を使用することもあります。
バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)ではデスモプレシンの効果が切れると尿量が増加します。この際にあまり尿意を我慢すると膀胱に尿がたまった状態が続くため、膀胱の機能が低下したり尿路感染症になることがあります。そのため尿意を感じたらなるべく速やかに排尿することが大切です。また、デスモプレシンの効果が続いている状態で水分を過剰に摂取すると低ナトリウム血症になるため、適度の水分摂取が求められます。バソプレシン分泌過剰症(SIADH)では主治医から指示された一日の水分摂取量(例えば体重1kg当り15~20ml)を守ることが必要です。 -
副腎皮質ステロイドホルモンの1つであるコルチゾールが過剰に分泌され、満月様顔貌や中心性肥満など特徴的な症状を示す病気をクッシング症候群といいます。このコルチゾールは生きて行くのに不可欠なステロイドホルモンで、下垂体から出てくる副腎皮質刺激ホルモン(Adrenocorticotropic Hormone, ACTH, 別名コルチコトロピン, Corticotropin)というホルモンによって分泌が促進されます。ACTHは、さらに上位の脳にある視床下部から分泌されるコルチコトロピン放出ホルモン(Corticotropin-releasing Hormone, CRH)というホルモンの調節を受けています。この視床下部CRH-下垂体ACTH-副腎コルチゾール系の中で、結果的に副腎のコルチゾールが過剰に産生・分泌され特徴的な症状を示す状態をクッシング症候群といいます。クッシング症候群の中にもいくつか原因があります。ACTHが過剰に分泌され、その結果コルチゾールが増える状態をACTH依存性クッシング症候群といいます。さらにこの中で下垂体に原因がありACTHを過剰に出す病気をクッシング病、下垂体以外からACTHが過剰に分泌される病気を異所性ACTH症候群といいます。一方、副腎が原因でコルチゾールを過剰に分泌する状態をACTH非依存性クッシング症候群または副腎性クッシング症候群といいます。最近の頻度は不明ですが、1965~86年にかけて行われた全国調査では、平均して年に約100症例の新たなクッシング症候群が発症し、そのうち副腎性が50%、クッシング病が40%程度と考えられています。実際にはこれよりも多いと考えられます。
またクッシング病は、1:4で女性に多いとされています。クッシング病は、下垂体にACTHを産生する腺腫ができてACTHの過剰分泌を生じることが原因と考えられています。ACTHを産生する下垂体腺腫がなぜできるかについては、現在研究段階です。
ほとんどは遺伝しませんが、まれに家族性となる例が報告されています。また、クッシング病の一部に、遺伝が関与する疾患として、クッシング病以外に副甲状腺や膵臓に腫瘍が発生する多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)があります。
糖質ステロイドホルモンの代表であるコルチゾールが過剰に分泌されますので、長期にわたると前腕や下肢の皮膚が薄くなり、皮下の毛細血管が透けて見えてピンクのまだら模様になります。やがておなかが出ている割に手足、特に上腕部や大腿部が細くなってきます。さらに物にぶつかった自覚がなくとも皮下出血しやすくなり、顔もむくんだ赤ら顔になります。さらには多毛、にきび、腹部や臀部に赤い筋ができます。子供で発症すると背が伸びなくなります。うつ傾向もでてきます。ACTHが多くなると、皮膚のこすれるところや関節部の皮膚が黒っぽくなります。病気が進行すると感染に弱くなり、敗血症で亡くなることがあるので注意が必要です。これら典型的な症状以外にも多くの例で、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症など生活習慣病と類似した合併症を発症します。
原因のほとんどが下垂体腺腫ですので、手術的に下垂体腺腫を摘出することが最も良い方法です。ただし、ACTHを産生する下垂体腺腫は小さいことが多いため、通常のMRI検査で見つけにくい場合もあります。一度手術をした後でも、腫瘍が再発した場合には、再度手術を考慮します。下垂体腺腫から産生されるACTHを確実に抑える薬がないため、手術療法で改善しない場合には、内服薬や注射薬で効果のありそうなものを試すか、副腎に作用して直接にコルチゾール産生を抑える薬を用いる場合もあります。下垂体腺腫に対して放射線療法を試みる場合もありますが、副作用として正常な下垂体機能が損なわれる下垂体機能低下症を発症することがあるため、注意が必要です。
糖尿病、高血圧症、脂質異常症、骨粗鬆症などを合併する場合は、それらの治療が必要です。筋力が落ちますので、転倒による骨折の予防や、さらに免疫力が低下しますので感染には注意が必要です。 -
水分を保持して、血圧を高める作用のあるアルドステロンが、副腎に生じた腫瘍や過形成などの何かしらの病変が原因となり、恒常的に過剰分泌されることで発症します。特定のホルモンが過剰になることで血圧が上昇する「内分泌性高血圧」の中でアルドステロン症は最もポピュラーで約10%を占め、日本人の推定患者数は200~400万人と言われています。
最も重要な症状は高血圧で、特に夜から朝にかけて血圧が高くなる傾向があります。また、通常の高血圧(本態性高血圧)よりも、心筋梗塞や脳血管疾患などの合併症になる割合が数倍高いとの報告があります。薬剤(治療)抵抗性の高血圧が持続するなど、本症が疑われた場合はまずスクリーニングの血液検査を行います。 ARR(アルドステロン・レニン比)という値を算出します。ARRが200以上の場合は原発性アルドステロン症の疑いがあります。
その場合は立位フロセミド試験などの負荷試験を行い、更に副腎の異常を確認するための画像検査(CT、MRI、超音波検査)を行います。確定診断・局在診断のためには更に高次なシンチグラムや副腎静脈サンプリングが必要となります。